小説「嫌悪感」

以下の文章はまったくのフィクションであり、実在の団体、個人にはまったく関係ありません。

 夫宛にメール便がきた。差出人が印刷されたものだったので、てっきりDMかなんかだと思った。郵便でなくクロネコメール便だしね。私信にメール便使う人ってまあ、あんまりいないじゃない?


 差出人が個人名だったので、わたしはもうすぐ選挙でもあるのかしら?と思った。選挙候補者のチラシ、宗教勧誘のPR誌、霊感商法のDM。そういうのって、結構面白い読み物になるのですよ。開けて読んでもだいじょぶでしょ☆ ってな軽い気持ちで開けちゃったのよ。


 中から出てきたのは、カモのリストだった。夫の住所(つまりうちの住所だ)とケータイナンバー、勤務先もご丁寧に写真入りで含まれて。


 いいたかないけど、個人情報ってものをどう心得ているのかしらね。この冊子を作ったひとは。作ったひとは絶対そうとは思ってないけど、この名簿をしかるべきところに流したら、名簿上の個人にはしかるべき複数の団体からアプローチがくることは間違いないとおもうよ?


 ある時期から、わたしはある団体について強い不信感を抱いている。かねてよりできるだけ関わりになりたくないと願うような団体に、何の因果かどっぷりと関わってしまった夫とは一瞬離婚まで考えました。わたしにとっては、例えば浮気されるのより苦痛だ。夫婦間でおおまかなものの見方や、価値観、理想といったものが食い違うのって、それは不幸なことだと思うもの。浮気なら、まだ話し合いでどうとでもなるかもしれないけど、そういうものが違っちゃうと、会話がなりたたなくなると、わたしは思う。


 あのとき、わたしはわたしの理解を超える場所へ行こうとする夫を、言葉を尽くして止めた。そのことで、夫はまた別の苦労をすることになる。そしてその傷は今の生活にも色濃く残っている。


 先刻、わたしは「何の因果か」と書いた。
 その因果、もしかしてわたしが呼んだのか? と面白がって封書を開けた瞬間の自分を思い出し、いやんな気分。宗教、マルチ商法泡沫候補霊感商法自己啓発セミナー、洗脳商法。そんな題材の本が、結構好物。そんな情報ばっかり触れてたから、向こうからやってきたような気がしてならない。かかわりあいになりたくないくせに、おもしろがってるからバチが当たったんだろうか?


 お願いだからこっちに来ないで。シアワセになりたいのなら、そっちで勝手にやってよ。こっちはこっちで勝手にやるからさ。


 しつこいようだけど、以上の物語はフィクションであり、実在の団体、個人にはまったく関係ありません。